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仁義なきお茶会 2

last update Last Updated: 2025-06-20 22:20:08

全く……せっかくローズマリーさんがお茶会をしてくれてるのにその態度はなんなの?

「いいのよ、レベッカ……ふふふふ、アレックスって面白いわぁ」

ローズマリーが椅子から立ち上がった。

「私がパン屋を手伝った後、午後はアレックスも来たのよねぇ……お手伝いに」

煽るようにローズマリーがアレックスの方へ近づいていく。寝転がっていたアレックスはむくっと起き上がった。

「おい!」

「え? アレックスそうなの? 私、誰からも聞いてない」

「ふふふ。張り切りすぎて、パンを練る台を壊したって聞いたけどぉ? ちゃんとお手伝いできたのかしら?」

含み笑いのローズマリーの口に、アレックスは手にしているフーガスを突っ込んだ。

「てめえは少し黙ったらどうだ?」

「ふっ、ご……ごふん、あほばせ……まぁ、おいしっ」

余裕でパンを頬張るローズマリー。

どうして仕事場の台が変わったんだろうと気になってはいたのだけど。アレックスのせいなの?

申し訳なくて仕事場に行けないわ……ちょっと待って。オーナーも同僚も、そのこと私に教えてくれないんですけど!

「ねぇアレッー」

「ところで! 家の目の前に人気のパン屋があるじゃねーか」

ビシッとアレックスは通りを指差した。

「そうよぉ、でも違うパン屋さんのパンも食べたくなるのよ……ねぇ」

同意を求められ、大きく頷く私。

「本当に美味しいわ。定期便でパンを頼もうかしら。レベッカにも会えるし」

「配達屋に頼め」「もちろんです!」

アレックスと私は同時に言葉を発した。紅茶を一口飲んで、ローズマリーは真面目な顔でー

「アレックス、あなたにはこれっぽっちも関係のないことでござんす」

「はぁ?なんだって? 聞き取れねぇ」

とりとめのない話をしていると、門の向こう側から女性の声がこだました。

「あっ、やっぱりー! おーい、アレックスさーんーー! あと…………助手さん」

 聞いたことのある声だけど……。

「え? あの子って……」

「なんだ、マーゴじゃねえか」

どうしてマーゴが? ていうかこんな感じだったっけ?

私がカラバーンに引っ越して間もない頃……アレックスに人探しの依頼をした少女。コリーを探してと。

コリー……あれは忘れられない案件だった。思い出すと今でも胸が苦しくなる。

「マーゴ……髪を切ったのね」と私。

栗色の長い髪は短くなって、肩にかかる位置でそろっている。それだけで明るく活発な女の子になっていて、別人のように見えた。

ローズマリーは首をかしげていた。

「あの……マーゴさん? 予約の時間より早いようですけど」

「ええ、まだなのはわかってます。十一時からですよね」

「いいえ。午後の一時ですわ……」

全員が沈黙。

「……え? やだ私ってば! 間違えちゃった!」

マーゴの顔は次第に赤くなった。そう言えば、アレックスのところにも早く来たっけ。

「まだ時間はたっぷりありますので、一度帰ったほうがよろしいかと思いますわ」

「ですよね……だけど馬車はもう行ってしまって……」

「あら……そうなの? 困ったわねぇ」

再び沈黙……。アレックスが口を開いた。

「マーゴ、久しぶりだな」

「はい、アレックスさん! お久しぶりです。ずっと会いたいなって思っていたんですよ」

マーゴはアレックスにとびっきりの笑顔。髪を切ったからだろうか、随分幼くも見える。

「マーゴ、商店街でも見てくればいい」

アレックスが提案した。

 マーゴは笑を浮かべている…………だけど沈黙。

どうしよう。これはローズマリーが決めること。アレックスも急に来ちゃってるし。

さっきから沈黙が多くてー

「あ、アレックスさんが一緒に来てくれるなら行きたいなぁ。ウィンドウショッピング、アレックスさんもどうです?」

「意味わからん。目的がない買い物は苦手なんだよ」

なぜだろう……胸がざわざわする。

ローズマリーと喧嘩ばっかりしてるから、アレックスとマーゴが商店街を歩いてくるなら、そのほうがいいはずなのに。

でもアレックスに行ってほしくない。

「えー、そんなぁ。じゃあ私に洋服を選んでください。私に似合う服を」

「なんでだよっ」

マーゴはアレックスにさらに近づいた。

「あ、あの! ローズマリー、私たちマーゴと知り合いなの。よかったらマーゴも一緒にどうでしょう?」

「あら、もちろん! いいですわよ。お二人がよければ」

にっこりと笑うローズマリー。ごめんなさいローズマリー……仕事が増えちゃうけど。もちろん私も手伝うわ。

「あ、いいのですか? 嬉しい! アレックスさんとまたご一緒なんて」

マーゴは天真爛漫に笑って、両手を合わせた。

もう! 人の気も知らないで……。

 え?

マーゴのお茶の準備をして戻ると、アレックスの横にピッタリくっついて座っているマーゴ。

おかしいくらいに近い。マーゴってこんな子だったかしら……髪を切ったら、性格も大胆で明るくなったの? パーソナルスペースはどうなっているのかしら?

「あらあら、二人とも兄妹みたいよ」

くっついている二人を見て、ローズマリーは嬉しそう。

「ねぇ、レベッカ。そう思わない?」

「え? ……ええ。ほんとに」

なんだろう? よくわからないけど落ち着かない。なんで…………痛っ。

今、心臓がちくっとした。

紅茶を飲んで、美味しいーと言いながら、アレックスにしなだれかかるマーゴ。

私はマーゴに話しかけた。

「マーゴさん、髪切ったのね。似合うわ」

「これで……あなたと同じ長さですよね」

マーゴは私の髪をじっと見つめて呟く。

え? なに? 私は自分のまとまりのないくせっ毛の髪を触った。

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